低用量ピルにはたくさんのメリットがありますが、一方で副作用が心配な方もいると思います。この記事では、低用量ピルの副作用について詳しく紹介したうえで、服用するメリットとデメリットを整理して解説します。低用量ピルに対して不安に思いがちな点や、安全に服用するために大切なポイントも紹介するので、ぜひ最後まで読んでくださいね。
この記事の監修医師
産婦人科クリニック 広尾レディース院長
宗田 聡
低用量ピルにはどんな副作用があるの?
服用開始直後に多い副作用
低用量ピルは女性ホルモンが2種類配合されたお薬です。服用すると女性ホルモンのバランスがコントロールされます。その効果として、排卵を抑制して避妊できたり、生理痛の緩和につながったり、生理日をコントロールできたり、たくさんのメリットがあります。
しかし、ピルを服用しはじめてから最初の1~3ヶ月ほどは、吐き気や頭痛などの副作用が出ることがあります。これらの副作用は、体がピルによるホルモンバランスの変化に慣れていないせいで起こるものです。服用を続けるうちに、このような副作用は出なくなることが多いです。
【低用量ピルの服用開始後に多い副作用】
- 吐き気
- 不正出血
- 頭痛
- 乳房のはりや痛み
- むくみ
気をつけたい「血栓症」について
低用量ピルの副作用で特に気をつけたいのは「血栓症」です。血栓症とは、血管の中で血が固まり、血管が詰まってしまう症状です。低用量ピルの服用は、血栓症の発症率を高めるリスクがあります。
血栓症が発症する頻度は、ピルを服用していない人の場合は年間で1万人中1~5人程度ですが、ピルを服用している人の場合は1万人中3~9人程度と考えられています。つまり、およそ2~3倍程度リスクが高くなります。
こうして見ると、ピルによって血栓症のリスクが高くなることが心配になるかもしれませんが、実はピルを服用していないときでも妊娠するとそれだけで12倍も血栓症ができやすくなります。通常、「妊娠すると血栓症がすごく高くなる」とものすごく心配することはないですよね。ですから、低用量ピルによる血栓症のリスクを過度に心配する必要はありません。
また、病院ではピルを処方するときは体質的に血栓症になるリスクが高くないかどうか確認したり、他に血栓症が起きやすいようなリスク(喫煙、肥満、40歳以上など)が高い人には処方するかどうかを相談することになっています。ですから、実際にはピルを飲むほとんどの方にとって血栓症が問題になることはありません。
もちろん、定期的に医師のチェックを受け、正しく服用を続けることは大切です。そうすることで、血栓症のリスクは限りなく下げることができます。
血栓症のリスクが高い人
以下に当てはまる人はピルの服用による血栓症リスクが高いため、ピルを服用することはできません。
【ピルを服用できない人】
- 初経前
- 50 歳以上または閉経後
- 35歳以上で1日15本以上の喫煙者
- 重症の高血圧症を患っている方
- 血管病変を伴う糖尿病を患っている
- 妊娠または妊娠している可能性がある方
- 産後4週以内の方
- 授乳中の方
- 手術前4週以内、術後2週以内、および長期間安静状態の方
- 肺高血圧症または心房細動を合併する心臓弁膜症,亜急性細菌性心内膜炎の既往のある心臓弁膜症を患っている方
- 重篤な肝障害,肝腫瘍を患っている方
- 前兆(閃輝暗点,星型閃光等)を伴う片頭痛のある方
- 乳癌を患っている方
- 血栓性素因(深部静脈血栓症,血栓性静脈炎,肺塞栓症,脳血管障害,冠動脈疾患またはその既往歴)のある方
- 抗リン脂質抗体症候群を患っている方
- 診断の確定していない異常性器出血がある方
- 低用量ピルに対して過敏性素因がある人
- 耳硬化症を患っている方
- 妊娠中に黄疸,持続性掻痒症または妊娠ヘルペスの既往歴がある方
上記のほかにも服用に注意すべき「慎重投与」の項目があるので、病院での問診では正確に答えるようにしましょう。
低用量ピルの副作用についてよくある質問
ピルは太りますか?
「ピルを服用すると太る」というウワサを聞いたことがある人がいるかもしれませんが、低用量ピルを服用したからといって急激に増えて太るということはありません。
人によってはピルを服用することで体調が非常に良くなり食欲もわいて服用前より食事量が増えるために2~3kgの増加が認められることもあります。気になる方は、食事の内容や量に気をつけてみましょう。
また服用しはじめた頃に起こりがちな副作用として「むくみ」がありますが、一時的なものですから太る心配はしなくても大丈夫です。
妊娠しづらくなりますか?
低用量ピルの服用を続けると「妊娠しない体になってしまうのではないか」と不安になる人もいるかもしれませんが、そんなことはないので安心してください。
低用量ピルを服用している期間は排卵が抑制されるので妊娠はしませんが、ピルの服用をやめると、また以前のように排卵するようになり妊娠することができます。
もちろん、服用前から月経不順などがあったときは、服用中止後も同じように排卵がうまくおこなわれていない可能性もありますので、心配な時はかかりつけ医で相談しましょう。
性欲がなくなるのですか?
ピルによってホルモンバランスがコントロールされることから、性欲に変化を感じる人はいるようです。個人差がありますので、かかりつけの医療機関と相談しながら服用している方が多いです。
服用するメリットの方が大きいの?
避妊だけじゃないピルのメリット
「ピル」と聞くと避妊薬のイメージが強いかもしれませんが、避妊以外にも様々なメリットがあります。
例えば生理痛や生理前の不調(PMS)の症状緩和の効果も期待できます。また、経血量が減ったり、生理周期が安定したり、予定に合わせて出血する日をコントロールすることもできます。
生理に関係する不調などが勉強や部活動、また仕事の妨げになっているような方にとっては、低用量ピルを服用すると生活の質の改善に繋がるかもしれません。
【低用量ピル服用のメリット】
- 生理痛(月経困難症)の症状をやわらげる
- 生理前の不調(PMS)の症状をやわらげる
- 経血量が減り、出血する期間も短くなる
- 月経不順(生理不順)が改善される
- 出血する日付の予定調整ができる
- 子宮内膜症のリスク低下や症状をやわらげる効果がある
- 卵巣がんや子宮体がんなど婦人科系の病気のリスクが低下する
- 大腸がんのリスクが低下する
- ニキビが改善される
また、避妊についても「男性主導の避妊法」であるコンドームとは違い、低用量ピルは自分自身で妊娠のリスクを回避できる避妊法です。日本ではピルの普及率はまだ高いものではありませんが、たくさんのメリットがあるお薬です。
興味があれば、まずは婦人科に相談を
ピルには、たしかにデメリットとして考えられる「副作用のリスク」もありあます。
最初に書いたように、服用開始1~3ヶ月の間は吐き気や頭痛などの副作用が出る可能性があることです。多くの人は服用を続けるうちに症状がなくなるのですが、体質的にピルが合わず、まれに症状が重く服用の継続が難しいこともあります。ただし、服用するピルの種類を変えてみたりすることで改善する方もいます。
また、わずかではありますが血栓症のリスクや、子宮頸がんと乳がんのリスクも増加する可能性があります。そのため、低用量ピルを服用している場合は、定期的に検診を受けることが勧められます。
メリットの方が大きく感じるか、副作用のリスクの方が大きく感じるかは人によって違うと思います。ただし副作用については、診察時の問診や検査によって体質的に血栓症になる可能性が低いことをチェックしたり、定期的に検診を受けることで対策できます。
ピルを服用することによって得られるメリットは大きいですし、もしピルの服用に興味があればまずは婦人科に相談ください。
では最後に、安全にピルを服用するためのポイントを以下でお伝えしてきます。これからピルの服用を検討している人はチェックしておきましょう
安全にピルを服用するために大切なこと
初めての人は婦人科で診察してもらう
低用量ピルを初めて服用する人は、血栓症のリスクがないかチェックしたり、低用量ピルの正しい服用方法の説明を受けるためにも、必ず婦人科を受診して処方してもらうようにしてください。
インターネット上で低用量ピルを販売している業者もありますが、十分な診察を受けずに低用量ピルの服用を開始するのはとても危険です。
気になる不調や変化があれば医師に相談する
服用し始めてから、最初の1~ 3ヶ月は吐き気や頭痛などの不調や、不正出血などが起こることがあります。そのような症状があればメモに残しておき、症状の程度がひどくなったり、長く続くようであれば医師に相談するようにしてください。ピルの種類を変えるなどして対処することもあります。
ちなみに、ピル服用中の症状などを記録できるアプリもあります。例えば産婦人科医監修の生理管理アプリ「ケアミー」は、通常の生理管理だけでなく、ピルの服用管理をすることもできます。
ワンタップで服用記録をつけられるだけでなく、以下のようにピル服用中の様々な症状を記録することもできます。
症状があった日はアプリ内のカレンダーにチェックマークが付くようになっているので、いつどんな症状があったのかを振り返り、医師に伝えることができます。ケアミーはアプリ容量が軽く、会員登録なしで使いはじめられます。広告表示もなくシンプルで使いやすいので、ぜひ一度お試しください。
血栓症の前兆と考えられる症状に注意する
低用量ピル服用中に、血栓症の前兆として特に気をつけたい副作用は以下の通りです。以下の症状がみられたら、すぐに近くのかかりつけ医療機関ではなく、「救急病院」にかかるようにしてください。
- 急なふくらはぎの強い痛み、異常なむくみ
- 手足の痺れ、脱力、麻痺
- 鋭い胸の痛み
- 突然の息切れ
- 視力障害(目が見えにくい)
- 舌がもつれる
- 激しい頭痛
- めまいや失神
また、血栓症を予防するには水分を十分に補給することが大切です。体の中の水分が少なくなると、血液は血栓ができやすくなってしまいます。また、長時間のデスクワークや乗り物移動などで座りっぱなしでいる状態には注意が必要です。適度に足を伸ばしたり曲げたりして血流を促すことも大切です。
以上、ここまで低用量ピルの副作用や、メリットと副作用のリスクを整理して解説しました。副作用の心配はある一方で、低用量ピルの服用にはたくさんのメリットもあります。きちんと医師の診察を受けた上で、正しい服用と定期的な検査を受ければ安全に服用し続けることが可能です。低用量ピルの服用に興味のある方は、あまり心配しすぎず、まずは婦人科にご相談いただければと思います。
参考文献
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